Added: Dec 10, 2025
Last edited: Dec 10, 2025
日本におけるエンジニアリングプラスチック市場の現状と展望
はじめに
エンジニアリングプラスチック（エンプラ）は、通常の汎用プラスチックと比べ、優れた機械的強度、耐熱性、化学耐性を持つ高性能ポリマー素材です。自動車、電子機器、航空機、産業機械、建設、包装など、さまざまな分野で金属やセラミックの代替として注目されています。
近年、世界的な軽量化の流れや、電子機器の小型化・高機能化、環境・リサイクル志向の高まりなどを背景に、エンジニアリングプラスチックの需要はさらに拡大すると予測されています。
本記事では、日本市場に焦点を当て、その現況、主要用途、成長ドライバー、今後のチャンスと課題について整理します。
日本国内の市場規模と見通し
日本におけるエンジニアリングプラスチック市場の規模は、2024年時点で約 7,263 百万米ドル と報告されています。
また、今後2025年〜2033年にかけて、年平均成長率（CAGR）約 5.6% で成長し、2033年には 11,877 百万米ドル まで拡大するとの予測があります。
世界全体としても、2024年時点でおよそ 1,210億5,000万米ドル の市場規模とされ、2025〜2032年の間に年平均成長率5.4%で拡大すると見込まれています。
これらのデータから、日本におけるエンジニアリングプラスチックの需要は堅調に拡大しており、今後も安定した成長が期待されていることが読み取れます。
主な用途と市場をけん引する産業
日本国内において、エンプラの用途は多岐にわたりますが、特に以下の産業が市場を牽引しています。
用途／産業特徴・動向電気・電子家電、通信機器、コネクタ、ハウジングなど。高性能かつ軽量・耐熱素材として強い需要。自動車軽量化、燃費改善のため、金属部品の代替用途で広く使用。電気自動車（EV）の普及でさらに需要増。航空宇宙航空機の内装パネルや構造部品など、軽量かつ高強度が求められる用途。今後の成長が期待。建設・建築配管、窓枠、断熱材など。都市化・インフラ整備の進展により安定した需要。包装・容器耐久性や成形の柔軟性を活かし、包装材や容器用途にも利用。特に機能性包装の需要増。
とりわけ、電気・電子および自動車分野が市場の中核となっており、世界的な電子機器の進化、自動車の軽量化・EV化が、日本国内でのエンプラ需要を押し上げています。
成長ドライバーおよび市場機会
日本および世界の市場において、エンジニアリングプラスチックの成長を後押しする主な要因（ドライバー）は以下のとおりです。
高性能素材へのニーズの高まり
機械的強度、耐熱性、耐久性、軽量性などの特性により、金属やセラミックからの代替が進んでいる。特に電子機器や自動車、航空など、高機能が要求される分野での採用が拡大。
軽量・燃費改善・環境対応
自動車の軽量化ニーズ、電気自動車（EV）の普及、さらにはCO₂削減や資源効率の観点から、金属から樹脂への転換が進んでいる。
電子機器の小型化・高性能化
スマートフォン、高速通信（5Gなど）、半導体などの進展により、小型で耐熱・高信頼性を持つ部品材料としてエンプラの需要上昇。
持続可能性と環境志向の高まり
プラスチックのリサイクルやバイオベース素材への関心が高まり、将来的な環境規制や素材代替の流れが追い風となる可能性。
これらの要因により、今後も技術革新および用途拡大を通じて、エンプラ市場は安定かつ持続的な成長が見込まれます。
課題と注意すべき点
一方で、エンジニアリングプラスチック市場が今後取り組むべき課題も存在します。
リサイクルおよび環境規制の対応
高性能ポリマーは強度や耐熱性などが優れている反面、リサイクルが難しい場合があり、廃棄や環境負荷の観点で規制や社会の目が厳しくなる可能性があります。
原材料コストおよびサプライチェーンの変動
グローバルな原油価格の変動や資源供給の不安定性が、原料コストや価格競争力に影響を与える可能性があります。
代替材料および新素材への競争
バイオプラスチック、リサイクル材料、複合素材など新しい材料の登場により、従来のエンプラが置き換えられる可能性があります。
これらの課題をクリアするためには、素材開発、リサイクル技術、サプライチェーンの管理、環境対応など包括的な戦略が求められます。
今後の展望と戦略への示唆
日本市場およびグローバル市場で、エンジニアリングプラスチックは今後以下のような方向で発展が見込まれます：
高性能樹脂のさらなる普及
電子機器、自動車（EV含む）、航空宇宙、産業機械といった分野で、温度変化、耐久性、軽量化、信頼性を求める用途が増加。PA、PC、PBT、PEEK、LCPなどの需要が拡大。
持続可能性・循環型経済への対応
リサイクル可能なエンプラ、バイオベース樹脂、サステナブルな素材設計など、新素材の開発と導入が進む。
用途の多様化と複合素材化
医療機器、建設、包装など新たな分野での採用が増加。また、繊維、金属、セラミックとの複合素材化による高付加価値製品の展開が期待される。
新興技術と素材イノベーション
3Dプリント、ナノ材料、再生プラスチック、高性能コンポジットなどの技術により、新たな市場や用途が創出される。
結論
エンジニアリングプラスチックは、その高性能・軽量性・多用途性によって、日本のものづくり市場において今後も不可欠な素材です。特に、自動車や電子機器の進化、環境志向、材料技術の革新などの追い風を受け、エンプラ市場は安定成長が期待されます。
ただし、リサイクル対応や環境規制、原材料の不安定性といった課題も存在し、それらへの戦略的な対応が企業の競争力を左右するでしょう。
主要な業界の発展
2025 年 5 月:BASFはポリアミド6.6の供給を確保するためにアルサシミー合弁会社を買収し、エンジニアリングプラスチックのポートフォリオを強化する予定だ。この統合により、特に自動車、エレクトロニクス、産業用途において、原材料の安全性、競争力、欧州市場での存在感が強化されます。
2025 年 4 月:コベストロは、使用済みヘッドランプ由来のリサイクル成分を 50% 含む TUV 認証 PCR ポリカーボネートを発売しました。 GIZ フォルクスワーゲンと NIO と共同で開発されたこの材料は、将来の車両向けに検証されており、自動車の循環性を促進し、持続可能性規制への準拠を保証します。